幽霊が×××
結衣
「すっごい綺麗。」
私は子供みたいにはしゃいで桜の花びらを掴もうとジャンプした。
『結衣そんなにジャンプしてると転んで---』
「きゃ--」
香夜が言い終わる前に案の定転んでしまった。
次にくるだろう衝撃と痛みに備えて目をつぶった。…?痛く、ない。
恐る恐る目を開けると私の下には香夜が居た。
『結衣…大丈夫?』
私の下から少し苦しそうに気遣うように尋ねてきた。
「ごっごめん!!」
私は急いで横に飛びのいた。
「重かったでしょ?わぁ~~怪我してない?!」
絶対重かった。体重+衝撃を甘くみると大変だ。わたわたしながら香夜の身体をピタピタ触る。
香夜が少し悲しく微笑んだ。
『大丈夫だよ、私は幽霊だから怪我はしない。』
「あっ…。」
そうだった。香夜は幽霊で私は人。これからも絶対に変わることのない事実。
『…そんな顔しないで結衣。結衣は笑顔が1番可愛い。』
それでも俯いている私に香が言った。
『結衣桜の花びら髪に付いてるよ。』
私が香夜の方を向くと目の前に香夜の顔があった。
「えっ…んんっ//」
いきなりのキスに呼吸が乱れる。とても長いくちづけに酸素が足りず苦しくて目が潤んでくる。
すると香夜の唇が離れていった。
『今の顔も可愛いけどね。』
「///」
いきなりされたキスで俯くのも忘れて香夜を見つめてしまった。
「香夜のばかぁ!」
恥ずかしさを紛らわすのにこんなことを言ってしまう。はぁ~私って可愛くないなぁ。それでも香夜は笑って抱き寄せてくれた。
『結衣。私は今まで結衣の為にこの桜を咲かせてきた』
「えっ?」
突然聞かされた言葉を上手く理解できない。
『少し昔話に付き合ってもらえるかな?』
私はコクンと頷くとそのまま香夜は続けた。
『私は昔流行りの病で死んでしまったんだ。でも死ぬ前に一目でいいからこの桜を見たかった。もう少しで桜が咲くという時に力尽きてしまって、その思いが強く私はこの世界に幽霊という存在になって残ってしまった。
長い間一人この桜の下で過ごしてきた。周りにも沢山の桜があったが時が過ぎるごとにこの大桜一本になってしまった。私はもう潮時だと思い始めこの桜に力を送ることもいつしかやめていた。
そんな時結衣君がここにきたんだよ。』
「わ、私が?でもこの前香夜に会いに行ったのが始めてだったのに。」
『きっと忘れてるんだね。結衣がとても小さい頃だったから。』
―――12年前―――
「わぁぁ~~んお家どこぉ~~?」
一人の女の子が桜の木下で泣いていた。
ふわっと風が吹いたかと思うと目の前には着物を着た青年がどこからともなく現れた。
「ひっぐすっ…お兄ちゃんだぁれ~?」
泣きながらも目の前に現れた知らない人物に問い掛ける。
『君私が見えるのかい?』
女の子が頷く。
『本当?人と話すのは久しぶりですね。君はどうしてここで泣いてるんだい?』
「結衣」
『?』
「君じゃなくて結衣なの。結衣ね遊んでたらいつの間にか一人になっちゃったの。そうしたらここにきてた。」
さっきまで泣いてたとは思えないほど元気に答た。
『そうか、結衣は皆とはぐれたんだね。私が皆の元まで送っていこう。』
喜ぶと思ったが結衣は少し悩んだように答えた。
「ちょっとまって!桜が綺麗なの。もっと見てたい。」
結衣はきゃーといいながら散っていく桜の花びらを取ろうとした。
『この桜はもうすぐ枯れてしまんだよ。』
香夜は哀しそうに桜を見つめて言った。
「可哀相。」
ぽつりと結衣が言った。さっきまで桜の木の周りを走っていたと思ったらぴたりと止まり枯れていく桜を見上げていた。
『…きっと桜も永い間生き続けて疲れてしまったんだ。最近ではもう誰も見にはこない、生きる意味も無くなってしまった。』
こんなことを子供に話してもきっと理解はできない、なのに話してしまうなんて話し相手に飢えていたのかもしれない。
「結衣が来てあげる。」
いつの間にか香夜の近くに来ていた結衣が言った。
「結衣がまた来てあげるよ。そうしたら桜枯れないよね?」
ニコニコしながら見上げてきた。
『…そうだね。そうしたらまた桜は生きる意味ができるかもしれない。きっと枯れない。』
そう言うと結衣はまたニコニコと笑った。一人の人間の為しばらくこの世界にいてもいいかもしれない。そんなちょっとした気まぐれだった。
「お兄ちゃんもまた結衣が来たら桜に会いに来てくれる?」
『あぁ。私はいつでもここにいるよ。』
結衣の目線に合わせて屈み込みながら答えた。
「よかったぁ。それなら桜も寂しくないね。」
クスッと笑ってしまう。
『結衣は優しいんだね。』
「//えへっ。」
少し照れながら笑いあった。
『それじゃあ行こうか。もうここも暗くなる。』
「うん。」
結衣はギュッと香夜の手を握った。握ったその手は香夜のものより遥かに小さく温かった。
「お兄ちゃんのお手て冷たいんだね。結衣あっためてあげる。」
普段人と関わらないため自分の温度など気にしていなかったが今の右手はとても優しい温かさだった。
『ここまで来たらもう帰れるかい?』
森を出て開けた道まで着た所だった。
「うん。ありがとうお兄ちゃん。結衣絶対また来るからね。」
『楽しみにしているよ。』
夕日に照らされながら二人は話していた。
「お兄ちゃんちょっと屈んでっ!!」
結衣が手招きした。
『何かな?』
ゆっくりと香夜が結衣に近づいた。
チュッ
結衣が背伸びをして香夜の頬に可愛いキスをした。
「また会えるおまじないだょ。」
そう言って結衣は香夜に背を向けて走っていった。
―――
「うっそだぁ。」
聞き終わった後の第一声がこれ。だって全く覚えてないし、そんなませたことをしていたなんて。
香夜は笑みをうかべながら話してくれた。
「…てことは香夜今までずーっと待っててくれたの?」
『思い出すの待てなくて会いにいってしまったんだ。』
少し照れたように香夜が言った。
「私---すっごい最低なことしたよね。子供の頃とはいえ香夜はずっと待っててくれたのに。」
香夜はまた私の背中に腕を回して抱き寄せてくれた。
『結衣は悪くない。ずっと待っていたのも勝手に会いにいったのも私のわがままだ。私を受け入れてくれただけでもう十分なんだよ。』
私も自然と香夜の背中に腕を回した。
「香夜…。」
『結衣。だからこの桜の最後を一緒に見てくれないか?私はこの桜を離れて君と歩んでいきたい。』
桜との憑依を解いたら桜は枯れる。でも…。
「うん。わかった。一緒にお別れしよう。」
皆さんお久しぶりです★
更新遅すぎてきっと忘れさられているころでしょう。
今回はエロ少なめ。昔の二人を中心に書いてみました。いよいよ次で番外編最後です←喜んで!皆やっとこの訳のわからない小説から解放されますよ(笑)
それではまた今度の夜に。