車の中で…
トン
…コンコンコンッ♪
不意に助手席側の窓がノックされ、慌ててそちらに視線を移す。
焦りながらパワーウィンドウを下げ、問いかける。
『…ちぇる?』
コクリと肯いた少女がドアを開け、車に乗り込んできた。
(幼い…これがあの写メの女の子?!)
助手席にちょこんと腰掛けた少女をまじまじと見つめながら、その少女と彼女がメールで漏らした欲求…それを文字通り表していた写メとが上手く繋がらず、ちょっとしたパニックを起こしてしまった。
ともかく…
『こんにちは…初めまして』
と、ぎこちない挨拶を投げかける。
少女がそれを受け
『こんにちは…エヘッ…』
と、照れ笑いを浮かべる。
(可愛い…)
そう思った瞬間我に返り、辺りをグルッと見渡した。
人通りも車の通りもそこそこある場所で落ち合ったのは失敗だったか…?
いや…誰一人こちらに注意を向けているような人物は見当たらない。
『タバコ…いいかな?』
まだ動揺の収まらない自分を苦々しく思いながら、少女が肯くのを待ってタバコに火をつけた。
それでもしばらくは何を話していたのか思い出せない。
多分…会えば二度とメールも来なくなるだろう…。
それより自分を確認したら、ちぇるはその場をソッと去り、静かに諦めるべき時間が来るまで独りで過ごすことになるんだろう…。
といった、その日に至るまで…、その場所にたどり着くまでに抱えた不安を一方的に話していた気がする。
“出会い系”などにお世話になったことのない男の動揺や不安な素振りを、少女はどんな風に受け取っていたのだろうか…?
ともかく…ちぇるは現れ、逃げ出す素振りもない。
2人に与えられた時間は多くなく…どれほど彼女が気紛れを起こしたとしても、今日何をするという余裕は無いように思えた。
ただ…。
やはり明るく人目に付く場所で、彼女と向き合っていることを、通行人は妙だと感じないだろうか?
不安を口に出し、ちぇるも肯いてくれたので場所を移動することにした。
適当な場所が思い浮かばず、少し離れたスーパーの立体駐車場へと車を潜り込ませる。
なるべく周囲に車がない場所を…と、適当な場所を探し当てたものの、他の車両が通路に頭を向けるなか、一台だけスモークの掛かった後部を通路側に向けるのは怪しすぎるか?
とりあえず…と、少し離れた位置に停められた車の群と同じように、フロントを通路側に向けて車を停めた。