案内人
トン
『…という感じです』
パソコンからDVDを抜き取りながら、3人掛けのソファーに少し間を空けて座る女の子に声をかける。
『…えと…あっ!アユミさんってカラダ柔らかいんですね』
ちょっと期待した反応とは違う答えをワザとらしく口にしながら女の子が微笑む。
…フム。
まぁ…いいか…時間はまだ有るはず…。
焦らないことだな。
自分に言い聞かせながら微笑み返す。
と、不意に女の子が頬を赤らめ、視線を外した。
… … …
ネットで体験談を元にした妄想を書き込んだところ、興味があるという女性からメールが届いた。
何度かメールを交わす内にすっかり打ち解け、やがて互いの欲望を重ね合わせ、それぞれの弱点を知り尽くす程の仲になった。
或る日、女性から『まとまった休みを利用して旅に出ようかと思うんです。…行き先は…。』
と、メールが届いた。
行き先は…?
僕の住む街も候補にあるらしい。
言い知れぬ高揚感に包まれながら返事を送る。
『もし、こちらに来られる予定になれば…僕も休みを取ってあちこち案内させて貰いますよ…。』
… … …
ぎこちない『初めまして』の挨拶を交わすと、とりあえず…と近くのネットカフェへと向かった。
彼女が最初に興味を示したお話の主人公達の記録を見てみませんか?
という誘いに彼女が乗ってきたからだ。
車やホテルのような密室だと、彼女の警戒心を煽るかも…と思い、『もし僕が意に添わない態度をとったら…少し大きな声を上げるだけで、僕にはとても不利な状況が作れるし…』という“表向き”の理由が彼女のお気に召したのかもしれない。
…一応といった仕切りで囲われた狭いスペースに用意されたPCを操作していると、彼女はその狭いスペースにムリヤリ詰め込まれたような3人掛けのソファーの端に腰を下ろした。
その顔には不安感は見当たらず、といって過度な期待感も浮かんではいなかった。
ただ単純に、僕の“お話”のモデルになった女の子達の様子に興味津々…といった好奇心が悪戯っぽい瞳に浮かび上がっているように思えた。
キュッと引き締めた膝についた両肘の先は、白く柔らかそうな頬に伸び、悪戯っぽい大きな瞳を支えるように顔を覆っている。
無理につぐんだ唇は流行りのアヒル顔を作り上げ、彼女を実年齢より幼く見せる。
(可愛いなぁ…)
欲情とは別の部分で反応した自分が心の中で呟いた…。