案内人⑦
トン
『お待たせ致しました…ようこそ、いらっしゃいませ…フフッ』
るりを連れて店を出た所で立っていると、車が一台スルスルと近付いてきて僕らの前に止まった。
ピピッ
という電子音に続いてガチャリと音をたて後部座席のドアがスライドし、運転席の男が声をかけてきた。
車に先に乗り込むと、るりの手を引き寄せ、隣に座らせる。
同時にピピッとまた電子音が鳴り、スライドしたドアが密閉空間を作り出した。
『ほほう…これはまた…』
バックミラー越しに視線を投げかけてきた運転席の男が、るりの容姿を確認し、感嘆の声を上げた。
『マスター…そんなに年寄りぶらないで…ククッ』
思わず笑いながら運転席の男に語り掛ける。
るりは緊張した面持ちで2人のやり取りを聞きながら、繋いだ手をギュッと握り締めてきた。
『るり、紹介するよ…僕の師匠であり仲間である“マスター”…、実は本名も本業も知らないんだけどね、あるサイトで知り合って意気投合して…こうしてたまに行動を共にしてるんだ。』
紹介された色男がバックミラー越しにるりを見つめながら軽く会釈をする。
つられてるりがバックミラーに向かって軽くお辞儀をした。
『マスター…、この子は“るり”。こんなに可愛い顔して…妄想オナが大好きなイケナイ子なんですよ…ふふっ』
るりがサッとこちらに顔を向け、握っていた手の力を抜いた。
いきなり恥ずかしい紹介をされて、少し怯んだらしい。
『大丈夫。マスターも僕もそれなりの経験値を持った大人だからね、いきなりるりが嫌がる展開に追い込むような真似はしないよ。ねぇマスター?』
『勿論!』
今度はしっかり振り返ったマスターがるりに向けて極上のスマイルを振りまいた。
(叶わないな…)
心の中でほんのり苦く微笑みながらマスターとるりの様子を窺う。
確か年は2つ3つ下のマスターはしかし、傍目にはそれよりずっと若く…るりと対して差のない年齢に見える。
マスターの人懐っこい笑顔につられて、るりもニコッと微笑みを返した。
(うん…いい感じだ)
怯えさせてしまっては面白くない。
僕らはるりの道先案内人であって、無理やりるりの望む場所へ押し込むつもりは無い。
るりのたどり着きたいステージまで行くのはあくまでもるりの意志じゃないと…。
僕らはるりがその歩を進め易いように道先を教え、時に先に進む為のアイテムを用意し、時に直に手を差し伸べる…あくまでも案内人なのだ。