定点観測②
トン
『ここら辺でいいかなぁ~♪』
マスターが鼻歌を口ずさむように呟くと、助手席の後輩君が足元から伸びたいくつもコードが繋がったノートパソコンをいじりだした。
『…んじゃいくよ♪』
マスターが言いながら各席の前に取り付けられたモニターの電源を入れた。
『 … … なんも映ってないがな…失敗ちゃうんか』
隣からタケちゃんのムッとした呻き声が聞こえた。
確かに画面には何も映らない。
…が、その割にはマスターに焦った様子はない。
と、ガチャッという音がして、パッと画面が明るくなった。
『うん、予想通り♪』
マスターの上機嫌な声と
『ハァ~っ!疲れたぁ…』
という女の声が重なった。
画面の中では人影がドサッとベッドに腰掛け、上半身をバタッと仰向けに倒す姿が映っている。
『ぉおっ!さすがはマスター!ヌカリ無しやなっ♪』
タケちゃんがご機嫌な声を上げる。
タケちゃんの変わり身の早さに、後部座席に向け振り返ったマスターは、アメリカンコメディの役者のようにワザとらしく両手を広げる。
ただ、その目には“なかなかイイ仕事するでしょ?”というような満足気な光が宿っていた。
マスターの視線に頷いた後、観測対象の女が映るモニターへと視線を移した。
女は『フゥー…』と一息つくと、ムクッと上半身を持ち上げ、少しダルそうに立ち上がると着替えを始めた。
着替え…といっても何故か色っぽい雰囲気はなく、Tシャツを替え、ジーンズをジャージに履き替えただけだ。
一瞬見えた下着姿も、見ようによっては勇ましい…といった感じで…どうやらそれはスポーツタイプの下着を着けているせいらしかった。
確かに引き締まったカラダにはそれらは似合っていたが、普通の男心をくすぐる…とは言えなかった。
『なんや威勢の良さそうな姉ちゃんやな…いや、確かに素材は良さそうやけど…コレ見ててオモロなるんか?』
またタケちゃんがマスターにジトってした視線を投げつけながら不平を口にする。
確かに…と、思わず頷きかける。
『マァマァマァマァ…』
マスターがやけにニヤニヤしながら僕らを宥める。
と、画面上の女がベッドに腰掛けながら、パソコンをいじり始めた。
『来た来たキタキタっ!』
と、マスターが妙に期待感を煽るような声を上げる。
と、その声に呼応するかのように女の手が胸元辺りでもぞもぞと動きだした…。