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定点観測①

トン

『いや、実はね…この間この後輩と管理物件の部屋のクーラーが調子悪いっていうので見に行ったのね…』

集合場所から移動しながらマスターが語り始めた。
助手席に座る“後輩”と呼ばれたガッチリとした色男が軽く頭を下げる。

『…でね、まぁワンルームの部屋なんだけど、その住人にそそられちゃって』
バックミラー越しのマスターがニヤリと笑う。

『なんやねんなぁ…もっとチャッチャと話進めぇな』
隣に座ったタケちゃんが少し苛立った様子で話の先を促す。

『ゆみちゃんって子なんだけど、なんてゆーか…イイ女でサ。それがなんかその…イイ女っ振りをあんまり意識してない感じで…分かり易く言えばサバサバした男っぽい態度で、見た目もサッパリした感じなんだわ』

『ほぅほんで?』
イイ女と聞いてタケちゃんが身を乗り出しながら先を促す。

『いや、まぁそれだけ…』
マスターが悪戯っぽく笑う。

『なんやねんソレ!ってかそれがどないしてん』
ムッとしながらタケちゃんがツッコミを入れる。

『まぁまぁタケちゃん、マスターがイイ女に目を付けたんだから…それだけで済むわけないって』

隣でジタバタ暴れられたら暑苦しい…
とっさにタケちゃんをなだめる言葉を吐きながら、なぜか自分自身妙に納得してしまった。

『ありがとう!その通り!』
マスターが声を出して笑いながら話を先へ進めはじめる。

『なぜかネ、その色っぽい…とか艶っぽいとか…平たく言えばエロっぽさを感じさせない女の子にね、本当になぜかピピッと惹かれちゃってネ』

『オッ…妖怪レーダーが反応してんな』
タケちゃんがツマラナいボケを入れる。

『妖怪って…いや、淫乱レーダーじゃないの?マスター?』
呆れながらマスターの話を促す。

『うん…そうかも?とにかく何か感じたんだわ』

『で、だからどないしたん?』
やっぱりイライラしながらタケちゃんが訊く。

『うん。そこでこの後輩が登場!エアコンは修理できたんだけど、ソックリ入れ替えてみたの…最新型の“覗き機能付き”に…』
マスターがニッと笑うのが解った。

『なにぃ~!ホンマかっ?そんなんいつの間に発売されてん!』
タケちゃんが大きな声で叫ぶ。

『発売って…マスターが仕込んだんでしょ?』
片耳を塞ぎながら問いかける。

『勿論。施工中に隙を見て盗聴器も仕掛けたよ…ヌカリなく…ククッ』

タケちゃんがガッツポーズを取るのが目に入った。