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定点観測⑥

トン

『マスター…不審車両発見や…一つ前の型の白のオデ…後部席に人影が一つ…メッチャ怪しいけど…どないする?』
タケちゃんが緊張した声でマスターに電話を掛ける。

『あぁ…多分単独犯や…おう…』

タケちゃんから離れて目を付けた車にソッと近付く。
人影が微妙に蠢いているのが見てとれた。
マスターの車が勢い良く現れ、助手席から降り立った後輩君が不審車両に近付き車体を激しく揺らし始めた。

中の人影が『ヒッ!』と短い悲鳴を上げる…。

… … …

翌日の夜…ゆみちゃんのマンションの空き部屋をすでに借りていたマスターが僕らを召集した。

『ここはオレの出番やろ?任せときぃな』
タケちゃんが妙に張り切った声を上げる。

『でも…そのコテコテの関西弁は…』
珍しく後輩君が自発的に口を開いた。

『ナニ言ってんの!僕だってサ、アレだよ…標準語ぐらい自在に使えるんだよ、任せたまえよ』
必死になるタケちゃんを宥めながらマスターがこちらを見る。

『トンちゃん頼める?僕らは顔割れてるし…ねっ♪』

乗り掛かった船だ。
大きく頷く。

『…でも…上手くいくかな?』
不安を口にする僕にマスターが囁く。

『ゆみちゃんが日課をこなし始めてからなら…アレの途中なら動揺して注意力は下がるだろうし大丈夫♪』

… … …

『○○ゆみさんですね…』
緊張しながら女の目を見つめる。

『ハイ…』
こちらも緊張した面持ちのゆみちゃんが見つめ返してくる。

『実は昨日近所で不審者が逮捕されたんですが…どうやらアナタの部屋に…その…盗聴器を仕掛けていたらしいんです…』
視線を外しながら言い切り、チラッとまた視線を戻す。

『えっ!』
顔を覆った手の間から、驚きに見開かれた目が覗く。

『スミマセンが証拠品の回収にご協力願えませんか…?』
申し訳なさげな顔を作り、ゆみちゃんに告げた。

『ハイ…』
呆然とするゆみちゃんに案内され部屋に入ると、マスターに教えられたベッドの盗聴器を取り除きゆみちゃんに本人の物では無いことを確認し、持ち帰ろうとタケちゃんに手渡した。

『あっ…犯人はアナタの元同僚でした。怨みとかではなく、単純にアナタに興味を持っていたと供述してます…。それと念の為確認したので大丈夫ですが、隣町のマンションで盗撮用カメラが幾つか回収されてます。ご用心下さい。では…』
ゆみちゃんは終始呆然としていた…。