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『縛って下さい…』

トン

『…縛って下さい…』

『…えっ?』

思わず聞き返した。
昼下がりのコンビニエンスストア。
元々暇な店内には客の姿はなく、カウンターの中にはフリーズした僕と、その目の前でモジモジとうつむき加減に僕を見つめるアルバイトの女の子の2人きり…。

『縛って下さい!』
女の子がキッと顔上げ、さっきより強い口調で同じ台詞を吐いた…!

『えっ?しばっ…縛ってって…えっ?』
再びうつむき加減になり、今度は視線をかわそうとする女の子を、見開いた目で見つめながら、つい同じ事を聞き返してしまった…。

『…いいです…忘れて下さい』
顔を真っ赤に染めた女の子がカウンターから出ようと背を向ける。

『あっ!ちょっと!』
言いながら2、3歩駆け寄りその手を掴む。

『ぁあっ…』
思わず…といった感じで、女の子の口から熱を帯びた吐息が漏れた。
そこへ僕と入れ替わりにシフトに入る別の女の子がやって来た。

『どうしたんですかぁ?』
訊かれて慌てて掴んだ手を離す。
手を掴まれていた子は慌てた様子でバックルーム(倉庫兼事務所スペース)に駆け込む。

『いや、何か調子悪いみたいで…「もう帰るか?」って訊いてたとこなんだ…』
参ったよ…なんてゼスチャーを交えながら苦しい嘘をつく。

『フーン…まぁ暇ですし、1人でもいいですよ』
後から来た方の子が笑いながら明るく言ってくれた。

『うん…まぁ…どうするか訊いてくるよ…』
言って自分もバックルームに向かっていった。

… … … …

『どういうこと?』
事務机の前に座った僕が、バックルームに逃げ込んだ女の子に訊く。

『えっと…』
女の子は立ったまま僕の前でモジモジしたままだ。

とりあえず店内にいる女の子に休憩を取ることを言いに行かせ、今、この状況にある。

『狙っていた先輩に彼女が出来てヤケになった?』
彼女がアルバイト仲間の男の子に想いを寄せ、その想いが砕けちったことは知っていた。
いや、本人から聞かされていた。

『そうじゃなくて…』
女の子は相変わらずモジモジしている。

『じゃあどうして?』
“解らないよ”表情で言いながら女の子に問いかける。

『…えと…実は…』

女の子が語り始めた。
僕の知っているその女の子の…普段の様子からは伺いしれないような興味深い話を。